福岡の伝統工芸品として名高い「久留米絣」。美しい藍色や濃紺に染め抜かれた素朴な柄…そんなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
私自身、福岡に長く住んでいながら久留米絣については初心者。暮らしにどう取り入れればよいのか、生地の特徴などを恥ずかしながら詳しくは知りませんでした。
そこでオンラインで繋がり取材させていただいたのは、久留米絣の織元「野村織物」。伝統的な久留米絣はもちろん、明るい色やモダンな柄も豊富に展開されている123年の歴史を持つ老舗です。
今回は、4代目野村周太郎さんの奥様であり、広報担当の野村さやかさんにお話をうかがい、久留米絣や野村織物の魅力をたっぷりとお届けします。
久留米絣とは?
日本三大絣のひとつ。素朴な美しさを持つ「久留米絣」
現在の福岡県久留米市で生まれ当時12歳だったという「井上伝(いのうえでん)」という少女によって生み出された木綿布が、「久留米絣」。綿織物で唯一、国の重要無形文化財に指定されている伝統的工芸品です。
1800年頃に創案され今に伝わる久留米絣は、愛媛県の伊予絣、広島県の備後絣とともに日本三大絣として知られ、素朴ながら精巧に織られたその美しさで人々を魅了しています。
久留米絣ならではの魅力とは?
久留米絣の大きな魅力、それは「独特の風合い」です。木綿布ならではの爽やかな肌触りはもちろん、なじむような柔らかさや軽さが特徴。
久留米絣の生地は37~8cmの横幅しかなく、もともとは着物をつくる布として使われてきました。洋服をつくるには大きな布が必要となるため、継ぎ目などができてしまう久留米絣は扱いが難しい素材だと言われています。
ですが近年、洋服の生地にしたいというアパレルメーカーからのお声が増えているのだそう。その理由は、洗えば洗うほど柔らかく自分らしい色に変わっていく素材感や、長く使っても破れにくい丈夫さ、先染めの織物(先に糸を染めてから織る)なので柄が消えないなど、久留米絣ならではの魅力から。
まさに、今の時代に求められている「エコ」な木綿布なのです。
野村織物とは?
120年以上の歴史を紡ぐ「久留米絣」の老舗
創業1898年(明治31年)、2023年で創業125年を迎える「野村織物」。福岡県八女郡広川町に工房を構え、現在は4代目の野村周太郎さんが社長を務める久留米絣製造販売の老舗です。
手作業にこだわり「色柄」も豊富に
野村織物は、久留米絣の「生地づくり」に力を入れてきた織元。約30を越える工程はほぼ手作業で行われ、「織り子(おりこ)さん」はなんと1人で4台の織機を使い生地を織り上げます。
すべての工程をたどると、約3ヶ月もの月日をかけて完成する希少な生地。これらのなかで、特に野村織物がこだわる工程が「くくり」と呼ばれるものです。
くくりとは、染色するときにひもなどでくくる(縛る)こと。くくった(縛った)部分だけ色が染まらずに残り、その部分が柄となります。この括り(くくり)によって生まれる柄は消えることがなく、プリントでは味わうことのできない柄の趣きこそが久留米絣の醍醐味とも言えます。
野村織物の久留米絣ならではの特徴は、独自の配合でつくられた「色柄の豊富さ」。
そのきっかけとなったのが、平成3年に染場が倒壊した出来事でした。この時までは黒や紺色といった久留米絣らしいベーシックな色づくりが中心でしたが、再開するにあたりこれを機に明るい色もつくろう、と転換されたのだそう。
現在は、4代目野村周太郎さんがひとりで染色を担当。久留米絣にはめずらしい、緑や黄色など明るい色があるのも斬新です。
これらは「赤・黒・黄・青」の4色の配合によって、すべての色がつくられているというから驚き。色落ちや色移りがほとんどない染色方法で丁寧に染め上げられているので、家庭の洗濯などで取り扱いしやすいのも嬉しいところです。
色だけではなく、独自でデザインされている柄も注目したいところ。工房内には一般のお客様向けに常に約80柄ほどが用意されており、日々新作と入れ替わっているので来店するたびに新しい久留米絣と出会えます。
野村織物に長く大切に受け継がれてきた古典柄に、現代的な要素をミックスした独特の柄は目を惹くものばかり。またオーダーに合わせて、オリジナル柄や独自の色合いを生み出すことができるのも特徴です。そのため、アパレル企業などからのオファーやコラボレーションなども多数手掛けられてきました。
個人のお客様からも定年や還暦のお祝いとして、オリジナル色柄による「作務衣」の注文も多いのだそう。
「ゆったりとおうち時間を楽しんでもらいたい」
「日本のよいものを贈りたい」
「長く使っていただきたい」
色や柄から丁寧に選んだ一品は、そんな気持ちが贈る相手にしっかりと伝わりそうですね。
新しいライフスタイルのなかに「久留米絣」を
世界中が未曽有の事態に見舞われ、野村織物へのニーズにも少なからず影響がありました。
「久留米絣を新しいライフスタイルのなかで、どう楽しんでもらうか。」
考え抜かれたすえたどり着いたのは、「マスクを自分でつくりたい」という需要に応え、たくさんある生地で「マスクをつくりたい人を応援したい」ということでした。
本絣、絵絣、板絣、縞・・・など様々な柄の種類をミックスさせた久留米絣の一尺はぎれ。
先が見えない不安な日々のなかで、ちくちくと久留米絣で洋裁をする「無になる時間」「心豊かになれる楽しいひととき」を届けたい。
そんな想いを込めて「綿100% 一尺はぎれ10枚セット」を販売。手に取る人たちに想いが届き、このはぎれセットは大人気に。マスクだけではなくパッチワークや小物製作の布として人気を集めています。
久留米絣を知らない方からもニーズのあったはぎれ。これをきっかけに久留米絣を知った方がもんぺなどルームウェアにも興味を持ち、今も久留米絣のファンが増えています。
まず手に取りたい。久留米絣のアイテムは?
久留米絣と言えば、やっぱり「のむらのもんぺ」
久留米絣の製品を使ってみたい。そう思ったらまず手に取りたいのが「もんぺ」。
10代後半から70代以上まで年齢問わず履きやすい「のむらのもんぺ」は、10分丈、7分丈から選ぶことができ、腰や太ももまわりはゆったり、足首に向かって少し細くなるシルエットがモダンな印象を与えます。
色柄豊富で、すっきりと着られるのに動きやすい。これが、のむらのもんぺ最大の特徴です。
のむらのもんぺは、履くほどに柔らかく風合いがよくなるのも魅力。私も履いてみましたが、綿100%でありながらその軽さと爽やかな肌触り、そして肌に添うような履き心地でほかの木綿布との違いを感じました。
洗濯するほどに履くほどに増す柔らかさは、「もんぺファン」を増やしている所以です。毎年30柄以上生み出されるという、新作の久留米絣でつくられたもんぺを楽しみにされている方も多いのだそう。
のむらのもんぺは、膝部分が二重構造になっているため曲げ伸ばしの多い膝部分が破れにくくなっているのも特徴。裾ゴムが入っているので、絞って従来のもんぺスタイルで着ることもできます。
これはデザインの変化を楽しめるだけでなく、ガーデニングや農作業などで虫の侵入を防ぐ役割も果たします。
今回お話を伺った、野村さやかさんがお気に入りのアイテムも、やはり「もんぺ」。
野村織物に嫁ぐ際に「好きな柄はどれ?」と尋ねられ社長であるご主人からのプレゼントされた思い出のもんぺなのだそう。10分丈の濃紺に青の水玉の久留米絣が、お気に入り「マイファーストもんぺ」だと話してくださいました。
この時選ばれた表情豊かな大きさの異なる水玉柄は、その後「野村織物と言えば水玉」と言われるほど代表的な人気の柄となっています。
時代が流れても素敵だと感じられるデザインと美しい色、そして時間を重ねることで柔らかくなじむような質感で、3世代で引き継ぐこともできる逸品。膝が擦れてしまったら、カットしてお子さんのハーフパンツにリメイクされる方も。
「一度履けば、そのよさは感じていただけるはずです。」
さやかさんは、そう輝く笑顔で話してくださいました。
時を越えて受け継がれる「久留米絣」
高い技術に裏打ちされた上質感と、温かみが感じられる素朴さが魅力の久留米絣。日々使ってこそ、本当の「良さ」を感じられると私も実感しています。限られた時間のなかでお話を伺いましたが、モノが消費され続ける昨今でも
「時を越えて、1枚の木綿布を愛し続けられる」
そんなモノづくりの真髄に少しだけ触れることができ感動しました。後編では、そんな久留米絣でつくられたギフトにぴったりの製品をご紹介します。どうぞお楽しみに。
photo / 野村織物
取材協力/野村織物
文/Naomi.Spring 伊野奈緒美
公式ホームページはこちら
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※情報は取材当時のものです。最新情報は、公式ホームページからご確認ください。
素敵な色柄のもんぺがいっぱい。あなたはどれがお好みですか?ぜひ、お気に入りの1本を探してみては。
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